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ATOGIKの倉庫

痕菊の倉庫
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  • 04/20/12:51

死んだ街で 4

廃墟となった国に、いつ崩れてもおかしくない程ぼろぼろな塔がひとつ。

その塔は国の中央にあり、城壁より高く、重量ある大きさをもっている。

その内部には、かつて国が栄えていた頃の品々がひっそりと眠っている。

最上階まで吹き抜けになっていて、中央に石造りの螺旋階段がある。

その階段の所々から、真横に伸びる柱が均等に階段を支えている。

三階ごとに大きな窓が設けられていて、その窓は光を十分に取り込む。

外から塔を見れば、真っ直ぐに伸びた上に、冠のような石が乗っている。

そこは塔の最上階で、昔は展望台として利用されていた場所だった。

しかし今その展望台は、窓が全て塞がれ、利用できないでいる。

人がいなくなってから、ある化け物が棲み始めたらしい。

人々は、その化け物に恐怖し、ある募集をかけた。

その募集には、腕に自信のある人が参加した。

そして、第一回目である今回。

一人の男が、出発した。



私は、覚えている。

あのときのことを。

とある日、我等の長である者が、人間に狩られたらしい。

それに対し、我等はただ怒った。

ろくな計画もせず、長を狩った人間が居る国を四方八方から襲った。

しかし、人間共は強かった。

さまざまな武器を使って、襲う我等をいとも容易く殺し、無力化していった。

結局、反対派だった少数を残して全滅した。

反対派にいた私は、この事態に少なからず恐怖していた。

人間共は私たちを狩りに来る筈だ。

そこで私達は提案を出し合いった。

そして、我等は一つの計画を作った。



ある夜、私たちは人間共の国に忍び込んだ。

そして、被害一つ出さずに、翌日人間共は国から去った。

計画は大成功だった。

我等大いに喜び、三日三晩踊り続けた。

しかし、突然だった。

国にいた人間共は諦めていなかった。

何百もの兵隊が、我等しかいない国に攻めてきたのだ。

我等は、国中を逃げた。

少しずつ仲間の数が減る中、私を含めた複数は、中央にある塔へ逃げ込んだ。

そして、最上階までたどり着いた我等は、下からくる人間共を確実に落とし、なんとか生き延びることが出来たのだ。

それから、何処の国から来るのか知れぬ人間が、幾つもやってきた。

我等は塔から降りずに、やってくる人間を片っ端から食し、ここに生き続けることに決めた。

しかし、そのうち人間共の数は目に見えるように減り、仲間内で衰弱し倒れる者が出てきた。

それを我等は、生き残る為に食した。

少しずつ数が減り、人間が来、その内何処ぞから我等に似た奴等が来るようになった。

そいつらは、人間を食す以外興味の無い奴等で、我等に干渉はしなかった。

外から奴等が来た頃から、来る人間の種類は変わってきていた。

昔は10人程度で、皆同じ格好をし、最期には同じ言葉を言っていた。

しかし最近来る人間は、一人か二人程度で、軽装から重装備した奴もいた。

我等への攻撃は多種多様で、はじめは時間が掛かったものだった。

それからまた何年も経ち、最後の仲間が死に、私は独りになった。

衰弱した体から出る異臭は、あたりに白い霧をつくり、月明かりも最近はよく見えない。

部屋の中央に貯めておいた仲間の骨は白い山になってしまい、今は私の寝床だ。

私は、あまり体を動かさないように生活するようになった。

そんなある日、一人の人間がやってきた。

いつも通り食べようとして、白い山から出た。

人間は私の目の前に座って私を見ていた。

私は、動きが省けると思い、喜んで口を開けた。

そのとき人間が私に問うた。



『お前は、いつからここにいるんだ?』



・・・・・・・・・いつから・・・・・・・・・・・・・・・・・

いつだろうか・・・

この国を攻めたあの情景は、今は霞んでしまってよく思い出せない。

それより前、仲間と共に暮らしていたとき・・・・・・もう覚えていない。

もう何百年も前のようだった。

ここに仲間と来た日、私は仲間の先頭を切って戦っていたはずだった。

しかし、仲間は私を置いて先にいなくなってしまった。

そのことは既にセピア色をし、思い出すと微笑ましく思う。

私はいつの間にか、人間に答えていた。



『いつ・・・か・・・・・・忘れてしまったな・・・』

本当はそうなのかもしれない。

私はここにいることが、今になって不思議に思っていた。

長が狩られ、奮起して全滅し、国を潰した結果が今。

そういえば、生きる意味はとうの昔に無くなっていたのかもしれない。

いろいろなことを考えるうちに、何もかもが馬鹿らしく見え、

私はその場に伏せた。

人間は言った。



『そうだな・・・いつからなんてものは、絶対に必要ではない。』

『しかし、たとえ何があっても死ぬことは赦されないんだ。』

『仲間や居場所を失っても、最後まで護らなければならないのは命だ。』

私は、笑いが込み上げてきた。

『言うな人間、貴様は判っているか知らないが、我等は人間等によって苦しんでいるのだ。』

『なのに人間に命を大切にと言われ、何を思うと思った?貴様食ろうてやろうか。』

人間は立ち上がり、私を見下ろして言った。

『それもいいかもしれない。だってお前は間違ってないから。』

『だけどそれでどうにかなると思ってる訳じゃないよね?』

『ただ食うだけでお前が赦されるんじゃないし。』

私は立ち上がり、鼻で人間を捕まえた。

『それでいいのだ、人間。』

『我等は・・・いや、私は今、ここで行き続けることに意味がある。』

『貴様の言うとおり、貴様を食らい生きることにする。』

『私は誓ったのだ、いつか赦しが来るまでここで生き、生き続けると。』

私は、隠していた牙で人間を刺した。

太い牙は腹を貫通し、すぐに真っ赤に染まった。



月光を見上げた。

今日は良く見える。

何かあるのだろうか。

久しぶりに、人間の匂いがする。



すぐに扉が開いて、そこには茶色いコートを着た男が立っていた。

つづく
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