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死んだ街で 4
廃墟となった国に、いつ崩れてもおかしくない程ぼろぼろな塔がひとつ。
その塔は国の中央にあり、城壁より高く、重量ある大きさをもっている。
その内部には、かつて国が栄えていた頃の品々がひっそりと眠っている。
最上階まで吹き抜けになっていて、中央に石造りの螺旋階段がある。
その階段の所々から、真横に伸びる柱が均等に階段を支えている。
三階ごとに大きな窓が設けられていて、その窓は光を十分に取り込む。
外から塔を見れば、真っ直ぐに伸びた上に、冠のような石が乗っている。
そこは塔の最上階で、昔は展望台として利用されていた場所だった。
しかし今その展望台は、窓が全て塞がれ、利用できないでいる。
人がいなくなってから、ある化け物が棲み始めたらしい。
人々は、その化け物に恐怖し、ある募集をかけた。
その募集には、腕に自信のある人が参加した。
そして、第一回目である今回。
一人の男が、出発した。
私は、覚えている。
あのときのことを。
とある日、我等の長である者が、人間に狩られたらしい。
それに対し、我等はただ怒った。
ろくな計画もせず、長を狩った人間が居る国を四方八方から襲った。
しかし、人間共は強かった。
さまざまな武器を使って、襲う我等をいとも容易く殺し、無力化していった。
結局、反対派だった少数を残して全滅した。
反対派にいた私は、この事態に少なからず恐怖していた。
人間共は私たちを狩りに来る筈だ。
そこで私達は提案を出し合いった。
そして、我等は一つの計画を作った。
ある夜、私たちは人間共の国に忍び込んだ。
そして、被害一つ出さずに、翌日人間共は国から去った。
計画は大成功だった。
我等大いに喜び、三日三晩踊り続けた。
しかし、突然だった。
国にいた人間共は諦めていなかった。
何百もの兵隊が、我等しかいない国に攻めてきたのだ。
我等は、国中を逃げた。
少しずつ仲間の数が減る中、私を含めた複数は、中央にある塔へ逃げ込んだ。
そして、最上階までたどり着いた我等は、下からくる人間共を確実に落とし、なんとか生き延びることが出来たのだ。
それから、何処の国から来るのか知れぬ人間が、幾つもやってきた。
我等は塔から降りずに、やってくる人間を片っ端から食し、ここに生き続けることに決めた。
しかし、そのうち人間共の数は目に見えるように減り、仲間内で衰弱し倒れる者が出てきた。
それを我等は、生き残る為に食した。
少しずつ数が減り、人間が来、その内何処ぞから我等に似た奴等が来るようになった。
そいつらは、人間を食す以外興味の無い奴等で、我等に干渉はしなかった。
外から奴等が来た頃から、来る人間の種類は変わってきていた。
昔は10人程度で、皆同じ格好をし、最期には同じ言葉を言っていた。
しかし最近来る人間は、一人か二人程度で、軽装から重装備した奴もいた。
我等への攻撃は多種多様で、はじめは時間が掛かったものだった。
それからまた何年も経ち、最後の仲間が死に、私は独りになった。
衰弱した体から出る異臭は、あたりに白い霧をつくり、月明かりも最近はよく見えない。
部屋の中央に貯めておいた仲間の骨は白い山になってしまい、今は私の寝床だ。
私は、あまり体を動かさないように生活するようになった。
そんなある日、一人の人間がやってきた。
いつも通り食べようとして、白い山から出た。
人間は私の目の前に座って私を見ていた。
私は、動きが省けると思い、喜んで口を開けた。
そのとき人間が私に問うた。
『お前は、いつからここにいるんだ?』
・・・・・・・・・いつから・・・・・・・・・・・・・・・・・
いつだろうか・・・
この国を攻めたあの情景は、今は霞んでしまってよく思い出せない。
それより前、仲間と共に暮らしていたとき・・・・・・もう覚えていない。
もう何百年も前のようだった。
ここに仲間と来た日、私は仲間の先頭を切って戦っていたはずだった。
しかし、仲間は私を置いて先にいなくなってしまった。
そのことは既にセピア色をし、思い出すと微笑ましく思う。
私はいつの間にか、人間に答えていた。
『いつ・・・か・・・・・・忘れてしまったな・・・』
本当はそうなのかもしれない。
私はここにいることが、今になって不思議に思っていた。
長が狩られ、奮起して全滅し、国を潰した結果が今。
そういえば、生きる意味はとうの昔に無くなっていたのかもしれない。
いろいろなことを考えるうちに、何もかもが馬鹿らしく見え、
私はその場に伏せた。
人間は言った。
『そうだな・・・いつからなんてものは、絶対に必要ではない。』
『しかし、たとえ何があっても死ぬことは赦されないんだ。』
『仲間や居場所を失っても、最後まで護らなければならないのは命だ。』
私は、笑いが込み上げてきた。
『言うな人間、貴様は判っているか知らないが、我等は人間等によって苦しんでいるのだ。』
『なのに人間に命を大切にと言われ、何を思うと思った?貴様食ろうてやろうか。』
人間は立ち上がり、私を見下ろして言った。
『それもいいかもしれない。だってお前は間違ってないから。』
『だけどそれでどうにかなると思ってる訳じゃないよね?』
『ただ食うだけでお前が赦されるんじゃないし。』
私は立ち上がり、鼻で人間を捕まえた。
『それでいいのだ、人間。』
『我等は・・・いや、私は今、ここで行き続けることに意味がある。』
『貴様の言うとおり、貴様を食らい生きることにする。』
『私は誓ったのだ、いつか赦しが来るまでここで生き、生き続けると。』
私は、隠していた牙で人間を刺した。
太い牙は腹を貫通し、すぐに真っ赤に染まった。
月光を見上げた。
今日は良く見える。
何かあるのだろうか。
久しぶりに、人間の匂いがする。
すぐに扉が開いて、そこには茶色いコートを着た男が立っていた。
つづく
その塔は国の中央にあり、城壁より高く、重量ある大きさをもっている。
その内部には、かつて国が栄えていた頃の品々がひっそりと眠っている。
最上階まで吹き抜けになっていて、中央に石造りの螺旋階段がある。
その階段の所々から、真横に伸びる柱が均等に階段を支えている。
三階ごとに大きな窓が設けられていて、その窓は光を十分に取り込む。
外から塔を見れば、真っ直ぐに伸びた上に、冠のような石が乗っている。
そこは塔の最上階で、昔は展望台として利用されていた場所だった。
しかし今その展望台は、窓が全て塞がれ、利用できないでいる。
人がいなくなってから、ある化け物が棲み始めたらしい。
人々は、その化け物に恐怖し、ある募集をかけた。
その募集には、腕に自信のある人が参加した。
そして、第一回目である今回。
一人の男が、出発した。
私は、覚えている。
あのときのことを。
とある日、我等の長である者が、人間に狩られたらしい。
それに対し、我等はただ怒った。
ろくな計画もせず、長を狩った人間が居る国を四方八方から襲った。
しかし、人間共は強かった。
さまざまな武器を使って、襲う我等をいとも容易く殺し、無力化していった。
結局、反対派だった少数を残して全滅した。
反対派にいた私は、この事態に少なからず恐怖していた。
人間共は私たちを狩りに来る筈だ。
そこで私達は提案を出し合いった。
そして、我等は一つの計画を作った。
ある夜、私たちは人間共の国に忍び込んだ。
そして、被害一つ出さずに、翌日人間共は国から去った。
計画は大成功だった。
我等大いに喜び、三日三晩踊り続けた。
しかし、突然だった。
国にいた人間共は諦めていなかった。
何百もの兵隊が、我等しかいない国に攻めてきたのだ。
我等は、国中を逃げた。
少しずつ仲間の数が減る中、私を含めた複数は、中央にある塔へ逃げ込んだ。
そして、最上階までたどり着いた我等は、下からくる人間共を確実に落とし、なんとか生き延びることが出来たのだ。
それから、何処の国から来るのか知れぬ人間が、幾つもやってきた。
我等は塔から降りずに、やってくる人間を片っ端から食し、ここに生き続けることに決めた。
しかし、そのうち人間共の数は目に見えるように減り、仲間内で衰弱し倒れる者が出てきた。
それを我等は、生き残る為に食した。
少しずつ数が減り、人間が来、その内何処ぞから我等に似た奴等が来るようになった。
そいつらは、人間を食す以外興味の無い奴等で、我等に干渉はしなかった。
外から奴等が来た頃から、来る人間の種類は変わってきていた。
昔は10人程度で、皆同じ格好をし、最期には同じ言葉を言っていた。
しかし最近来る人間は、一人か二人程度で、軽装から重装備した奴もいた。
我等への攻撃は多種多様で、はじめは時間が掛かったものだった。
それからまた何年も経ち、最後の仲間が死に、私は独りになった。
衰弱した体から出る異臭は、あたりに白い霧をつくり、月明かりも最近はよく見えない。
部屋の中央に貯めておいた仲間の骨は白い山になってしまい、今は私の寝床だ。
私は、あまり体を動かさないように生活するようになった。
そんなある日、一人の人間がやってきた。
いつも通り食べようとして、白い山から出た。
人間は私の目の前に座って私を見ていた。
私は、動きが省けると思い、喜んで口を開けた。
そのとき人間が私に問うた。
『お前は、いつからここにいるんだ?』
・・・・・・・・・いつから・・・・・・・・・・・・・・・・・
いつだろうか・・・
この国を攻めたあの情景は、今は霞んでしまってよく思い出せない。
それより前、仲間と共に暮らしていたとき・・・・・・もう覚えていない。
もう何百年も前のようだった。
ここに仲間と来た日、私は仲間の先頭を切って戦っていたはずだった。
しかし、仲間は私を置いて先にいなくなってしまった。
そのことは既にセピア色をし、思い出すと微笑ましく思う。
私はいつの間にか、人間に答えていた。
『いつ・・・か・・・・・・忘れてしまったな・・・』
本当はそうなのかもしれない。
私はここにいることが、今になって不思議に思っていた。
長が狩られ、奮起して全滅し、国を潰した結果が今。
そういえば、生きる意味はとうの昔に無くなっていたのかもしれない。
いろいろなことを考えるうちに、何もかもが馬鹿らしく見え、
私はその場に伏せた。
人間は言った。
『そうだな・・・いつからなんてものは、絶対に必要ではない。』
『しかし、たとえ何があっても死ぬことは赦されないんだ。』
『仲間や居場所を失っても、最後まで護らなければならないのは命だ。』
私は、笑いが込み上げてきた。
『言うな人間、貴様は判っているか知らないが、我等は人間等によって苦しんでいるのだ。』
『なのに人間に命を大切にと言われ、何を思うと思った?貴様食ろうてやろうか。』
人間は立ち上がり、私を見下ろして言った。
『それもいいかもしれない。だってお前は間違ってないから。』
『だけどそれでどうにかなると思ってる訳じゃないよね?』
『ただ食うだけでお前が赦されるんじゃないし。』
私は立ち上がり、鼻で人間を捕まえた。
『それでいいのだ、人間。』
『我等は・・・いや、私は今、ここで行き続けることに意味がある。』
『貴様の言うとおり、貴様を食らい生きることにする。』
『私は誓ったのだ、いつか赦しが来るまでここで生き、生き続けると。』
私は、隠していた牙で人間を刺した。
太い牙は腹を貫通し、すぐに真っ赤に染まった。
月光を見上げた。
今日は良く見える。
何かあるのだろうか。
久しぶりに、人間の匂いがする。
すぐに扉が開いて、そこには茶色いコートを着た男が立っていた。
つづく
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